札幌芸術の森の開園40周年を記念して開催されている展覧会「花と獣 いろとかたち」。タイトルどおり、身近に存在する自然や植物、生き物たちをモチーフに、多くのアーティストによって表現された作品群が野外や館内のあちこちに展示されています。
【見どころ解説】「花と獣 いろとかたち」アーティストそれぞれの表現
岡田敦(写真)|ユルリ島に消えゆく「幻の馬」と幽玄の世界
ユルリ島は根室沿岸にある小さな無人島です。そこには戦後、昆布漁を手伝うために馬が持ち込まれました。近代化に伴い島に置かれた番屋で作業をしていた人々は去り、馬だけが島に残ります。馬は自然繁殖を繰り返し、たまに人が訪れて手入れをしていましたが、その人々も高齢になり、雌馬だけが島に残されています。近い将来、島から馬の姿が完全に消えることが運命付けられているのです。
その馬たちをモチーフに写真を撮り続けているのが岡田敦氏です。
実は3年前、十勝の鹿追町にある神田日勝記念美術館で、この写真を観たのですが、その時の衝撃は今でも忘れられません。
神田日勝(NHKドラマ「なつぞら」の主人公の幼馴染のモデルになった人物でもあり、馬の絵で有名)の描く馬は、毛の一本一本から大地の土臭さが感じられ、十勝の風土をそのまま閉じ込めたようなどっしりとした重量感のある馬です。絶筆になった馬の作品は、画面の半分しか描かれていないのにもかかわらず、恐ろしいくらいの静かな生命の力を感じる作品です。
その日勝の作品と対峙するかのような美しい白馬の写真。大きく引き伸ばされ、白い霧の中からけぶるように匂い立つように馬の姿が写されています。美しく流れるような白いたてがみにじっとこちらを見つめる黒い濡れたようなつぶらな瞳。観るものの目を一瞬で虜にしてしまうその美しい姿は生命力とは正反対の位置にあり、実体感はまるでなく幽玄の世界に存在しているかのようです。それは消えゆくことが決められている存在の儚さと呼応するかのようにも見えます。
絵画という「作家の内側から作り出した作品の現実感」と、写真という「作家の目を通した世界を切り取った空虚感」。
今回の展示では、馬たちの写真に囲まれた空間に13分の映像作品が流れていました。数年の時を経て撮り続けられた映像と写真には、当初からの馬の数がだんだんと減って行く様子も克明に記録されています。
上空から捉えた緑の湿原と、そこに幾筋も流れる水の模様。その中を歩く白い馬たちの情景は、まるで絵画のようで、映像でありながら実体感がありません。冬の厳しい寒さの中でじっと耐える馬たち。長いまつげを伏せた瞳には何が映っているのか。食べ物も水も豊富にあり、外敵はいない。けれどその平和な暮らしは必ず終わることが決まっている。自分たちの運命を知っているのかいないのか、ただひたすら風の音しか聞こえない中で馬たちは何を思うのか。
この写真を3年前に見たときに、私自身が本当に辛い時期で、吹雪のなかでじっとしている馬に自分を重ねていたように思います。圧倒的な静けさを感じる馬たちの写真からは、物事にはどんなことにも終りがあることの予感が感じられます。例えそれが良いことであっても、あるいは悪いことであっても。
終焉の予感の中に、美しい静けさという永遠性を感じることができるのです。一瞬は永遠であり、永遠もまた一瞬の中に存在する。時間と歴史をひとつの空間で感じることのできる作品でした。
瀬戸優(テラコッタ)|玉眼が宿す野生の生命力
実物大で作られたという動物たちのテラコッタ作品群。波間から空へ顔を突き出したかのような「52Hzのクジラ」や、ヌーを仕留めたライオンの様子を表現した「CIRCULATIONーLion&Gnuー」からは野生に生きる動物たちの様子が目の前に表現される迫力があります。
大きく肉付けされたテラコッタによる羽の表現や、毛皮の表現からは、実際の物の形をそのまま写し取らなくても、物質の性質を再現することで、本物のような表現ができることがわかります。また、それぞれの生き物には玉眼が入れられています。この眼があることで、本物以上に野生の生命力が感じられ、臨場感ある作品展示となっていました。
藤戸竹喜(木彫)|一本の木から削り出される自然の世界
北海道を代表する木彫家で、驚くほどの精緻な技巧で鑑賞者を圧倒する藤戸竹喜。ただ上手なだけではなく、卓越した構成力が素晴らしい作品が多く展示されていました。
「鹿を襲う熊」では中央にいる鹿に向かって左上からと右下から二頭の熊が襲いかかります。構図の素晴らしさはもちろんのこと、中央で四肢を広げて、襲いかかる敵に対して大きな角をしっかりと擡(もた)げる雄鹿からは、野生に生きるものの尊厳が感じられます。まるで映画のワンシーンを切り取ったような劇的な場面がたった一本の木から彫り出されるという神業のような卓越した技術力が圧巻です。
ザトウクジラやワラジエビなどの写実画のような作品は、アイヌを出自とし木に対して深い造詣があったからこそ、その表現に最も適した木を見極めて選んでいたのではないか、と感じさせられます。作品ごとに異なる木の材質や木目を引き立てる技法を見比べながら鑑賞するのも、非常に面白い見どころです。
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【ランチ】ごちそうキッチン「畑のはる」で野菜たっぷりビュッフェ
芸術の森センター2階にある【ごちそうキッチン「畑のはる」】はとってもおすすめのレストランです。90分のビュッフェ形式ですが、野菜を中心としたメニューが豊富で、とても美味しくいただけました。子連れでも気兼ねなく過ごせて、店名のとおり美味しいお野菜に大満足できる内容でした。
ランチビュッフェ(11:00~15:30 / L.O.15:00)
- 大人(中学生以上):2,300円
- シルバー(65歳以上):2,050円
- 小人(小学生):1,200円
- 幼児(4歳以上):700円
- 3歳以下:無料
カフェタイム(15:00~16:00)
- デザートプレート+ドリンクバー:1,100円
子どもと一緒に楽しめる!夏の思い出づくりスポット
他にもまだまだ多くのアーティストたちの作品が展示されています。野外美術館では、同時に開催されている謎解きイベントをしながら楽しんでいる人も多く見受けられました。

また、佐藤忠良記念子どもアトリエでは南極探検隊のタロやジロをモチーフにした作品や、その制作風景などの映像もあり、展示作品に触れて一緒に写真を撮ったりできるので、夏の思い出づくりにぴったりでした。
札幌芸術の森「花と獣 いろとかたち」展|開催概要とチケット料金
- 会期: 2026年7月11日(土)〜9月27日(日) 会期中無休
- 時間: 7、8月は午前9時45分~午後5時30分(入館は午後5時00分まで) 9月は午前9時45分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
- 会場: 札幌芸術の森美術館、札幌芸術の森野外美術館、佐藤忠良記念子どもアトリエ、有島武郎旧邸
- 観覧料(入場料): 一般1,600(1,300)円、高大生1,000(800)円、小中学生500(400)円、未就学児無料 ※( )内は20名以上の団体料金 65歳以上の方は当日料金が1,400(1,200)円年齢のわかるものを提示
- アクセス: 地下鉄南北線「真駒内駅」より中央バス(空沼線・滝野線など)で「芸術の森入口」または「芸術の森センター」下車
- 駐車場: 1回 500円(普通車)
まとめ「花と獣 いろとかたち」展は大人も子どもも一日楽しめるおすすめの展覧会

札幌芸術の森の開園40周年を飾る「花と獣 いろとかたち」展は、美術館の屋内展示から自然豊かな野外エリアまで、広大な敷地全体でアートを感じられる見応えある展覧会でした。
岡田敦氏が切り取る神秘的なユルリ島の世界や、瀬戸優氏の力強い生命力、藤戸竹喜氏の圧巻の木彫技術。他にもまだまだ多くのアーティストたちの作品が展示されています。美味しい野菜ビュッフェや子どもがアート体験できるエリアも充実しており、知的好奇心もお腹も満たされる大満足の体験ができます。
身近な自然や生き物たちが、アーティストの手によってどのような「いろ」と「かたち」で表現されているのか——。会期は2026年9月27日(日)までとなっていますので、ぜひ足を運んでみてください。

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