札幌市南区のギャラリーカモカモで開催されていた「たおやかなもの」ファイバーアート三人展(2024年11月10日〜16日)で、アーティストの加藤祐子さんから「絶対行くといいわよ!」と熱烈におすすめしてもらった個展、それが札幌ギャラリー創で開催された佐藤一明さんの「見てくる犬」展でした(2024年11月16日〜12月1日)。
「たおやかなもの」展で感じた温かく優しい空間とはまた違う、どこか懐かしい、そして心が優しくなるような感動がそこにはありました。おすすめしてもらって本当に良かった!そう心から思える、記憶に残る個展でした。
展示概要
地下鉄南北線中島公園駅から歩いてわずか5分ほどのギャラリー創。2024年11月の肌寒い雨の中、ギャラリーからは柔らかく温かな明かりがこぼれていました。
雪が降りそうな冷たい雨に身を縮めながら扉を開けると、迎えてくれたのはつぶらな瞳で見つめてくる、たくさんの視線。視線。視線。
彼らこそが、作家の佐藤一明さんが飼っているラブラドールレトリバーをモチーフにした作品「見てくる犬」たちです。
ギャラリー内の様子と作品の魅力

ギャラリー内には、実物大の「見てくる犬」が堂々と佇んでいたり、20センチほどの小さな犬たちが壁面の展示台にちょこんと座っていたり、様々なサイズの作品が並んでいました。数点の絵画作品もありましたが、どの犬たち(そして猫も!)からも、まるで声なき声が発せられているかのよう。
作品に添えられた小さなキャプションには、犬に限らず動物を飼ったことがある人なら思わずニヤリと笑ってしまうような、愛情とユーモア溢れる一言が添えられています。
在廊されていた作家の佐藤さんにお話を伺ったところ、作品は丘珠の倉庫で制作されているとのこと。第30回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)に出品した際には、約2.5メートルもの巨大な「見てくる犬」を重機も使って制作したそうです。いつかそんな大作も実際に見てみたいものです。
「見てくる犬」たちが放つ温かい眼差し

佐藤さんの作品は主に金属板で作られていますが、思わず触れて撫でたくなってしまうような、不思議な温もりを感じる造形です。これは単に犬が可愛いからというだけでなく、作品全体から犬に対する作家の深い愛情が溢れているからでしょう。
実物大の作品であれば、玄関に置いて仕事から帰った時の疲れを癒してもらいたい。小さな作品は、机の脇や観葉植物の鉢の間など、ちょっとした片隅に置けば、毎日を寂しくなく過ごせそうです。
何よりも、そのもの言いたげな眼差しには、多くの人が心を奪われるはず。「見てくる犬」の誰かを連れて帰りたくなるような、抗いがたい衝動に駆られました。
第30回UBEビエンナーレとは
山口県の南西に位置し瀬戸内海に面した宇部市は、利便性の高い都市部と美しい自然を併せ持つ場所です。その宇部市で、戦後の市民運動をきっかけに1961年から2年に一度開催されている「UBEビエンナーレ」は、世界で最も歴史のある野外彫刻の国際コンクールです。
2024年に開催された第30回UBEビエンナーレでは、28カ国183点の応募作品から一次審査で30点が選出されました。そのうち半数の15点が約10倍の大きさで、UBEビエンナーレ彫刻の丘に展示されたのですが、なんと「見てくる犬」もその中の1点に選出され、島根県古賀町賞・市民賞(模型買上げ賞)を受賞しています。佐藤さんの作品が国際的な舞台でも高く評価されていることがわかります。
展覧会情報
【会期・時間】
2024年11月16日(土)〜12月1日(日)※開催終了 11:00〜18:00 火曜休 最終日17:00まで
【アクセス&駐車場情報】
GALLERY創 〒064-0809 札幌市中央区南9条西6丁目1−36−2 ℡:011‐562‐7762 地下鉄南北線中島公園駅から徒歩5分 駐車場なし(近隣の有料駐車場をご利用ください)
〒064-0809
札幌市中央区南9条西6丁目1−36−2
℡:011‐562‐7762
地下鉄南北線中島公園駅から徒歩5分
駐車場なし
近隣の有料駐車場を使用
周辺施設
・中島公園
・豊平館
・北海道立文学館
・Kitara
まとめ
シンプルな線と面で形作られた「見てくる犬」たち。しかし、そこにはまるで本物の魂が宿っているかのような存在感があり、私達の心を温かく和ませてくれます。
生きものを飼ったことが一度でもある人なら、彼らとの言葉を使わないコミュニケーションがどれほど深く、尊いものであるかを思い出すことでしょう。そして心の中にそっとしまっておいた、彼らとの心温まるやりとりを「見てくる犬」を通して再び思い返すことができるはずです。
「見てくる犬」は、単なるアート作品ではなく、そういった自分にとって大切な思い出を取り出すためのコミュニケーションツールと言えるかもしれません。
以前飼っていた、今は亡き大切なウサギの友人のことを思い出して、そんなことを考えた佐藤一明「見てくる犬」展でした。

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