札幌芸術の森美術館で開催されている「リフレクションズ:いつかの光」展。写真、油彩、インスタレーションなど多様なメディアで表現された5組のアーティストによる「光」へのオマージュを詳細にレビューします。
「リフレクションズ」が誘う内省的な体験とは? 本記事では、全作品を鑑賞した視点から、混雑情報、各作品の見どころ、そしてアクセスまで、この展示会を最大限に楽しむための情報をお届けします。
🎨 札幌芸術の森美術館「リフレクションズ:いつかの光」展 開催概要
| 項目 | 詳細 |
| 展覧会名 | リフレクションズ:いつかの光 |
| 会場 | 札幌芸術の森美術館 |
| 会期 | 2025年11月15日(土)〜 12月21日(日) |
| 開館時間 | 9:45〜17:00(入館は16:30まで) |
| 休館日 | 月曜日(祝日の場合は翌日) |
| 観覧料 | 一般 1200円 / 高校・大学生 700円 / 小・中学生400円 小学生未満 / 無料 ※65歳以上は当日料金 1000円 ※団体割引あり |
| 割引 | Kitara Club 会員カード提示で割引有り |
| 主催 協賛 | 札幌市芸術文化財団 ㈱メルコグループ |
混雑状況と鑑賞所要時間の目安
来場計画を立てる際に気になる、混雑具合と所要時間をまとめました。
⏰ 混雑状況とベストな訪問時間帯
- 平日: 終日比較的空いています。特に午前中(開館直後)は非常に静かで、作品と深く向き合いたい方におすすめです。
- 土日祝日: 午後13時〜15時頃がピークとなりやすいです。開館直後の9:45を狙うか、閉館間際(16:00以降)を狙うと、比較的ゆったり鑑賞できます。
⏳ 鑑賞所要時間
- ざっと鑑賞する場合: 30分〜40分
- じっくり鑑賞する場合(推奨): 60分〜90分
特に映像や音響を用いたインスタレーション作品は、時間をかけて変化を感じ取ることでより深い体験が得られます。時間に余裕を持っての来場をおすすめします。
🌟 展覧会の見どころ:5組のアーティストによる「光」の世界
本展覧会は、写真、油彩、インスタレーション、彫刻といった多様なメディアを用いる5組のアーティストを通して、「光」の多面的な意味、そしてそれが映し出す「存在」の姿を探求しています。
「リフレクションズ」が誘う内省的な体験
「リフレクションズ」というタイトルは、光の物理的な「反射」だけでなく、鑑賞者が作品を通して自己や世界について深く「熟考(Reflection)」することを促します。
池田光弘氏の絵画の漆黒の中に揺らめく炎の反射、野口里佳氏が客観的な視点で切り取る世界を照らし出す日常の光。平川紀道氏の光から変換される音や文字。これらの作品は、鑑賞者一人ひとりの心の中で反響し、個人的な「いつかの光」を映し出す鏡のような役割を果たします。
池田光弘氏:漆黒の中から輝きを増す、幻想的な油彩画
作品「untitled」の神聖さと静謐感
![芸森リフレクションズの展示作品の一部分「untitled]池田光弘](https://www.happa.blog/wp-content/uploads/2025/11/IMG_9296-e1763639449964-800x595.jpeg)
![芸森リフレクションズの展示作品の一部分「untitled]池田光弘](https://www.happa.blog/wp-content/uploads/2025/11/IMG_9297-800x1067.jpeg)
会場に入ってすぐに目を奪われるのが、池田光弘氏の油彩画「untitled」です。暗闇の中に立つ人物は、薪をくべ、炎を反射したかのように白く光っています。
火を操りながらじっと炎を見据える人物からは、人間が火を恐れない知性を持った存在であることを象徴するかのような、神聖さと静謐感を画面全体から感じさせます。森の中なのか、それとも内面的な深い空間なのか。この漆黒の闇の中で灯される明かりは、まさにサブタイトル「いつかの光」に呼応する、詩的で力強くオープニングを飾ります。
馬をモチーフにした作品群:儚くも美しい存在感


池田光弘氏の作品は、油彩とは思えないような儚げで幻想的な表現がとても印象的です。馬をモチーフにした作品群(untitled, horse no.1/no.2)では、画面の奥から揺らめくように浮かび上がる馬の姿が美しい。
生死の合間にいるような、写実的ながらも存在感の希薄さ。これは本当にそこにいるのか、それとも過去にいたものなのか、その実体を掴みきれない、不思議で奥深い世界観に引き込まれます。
野口里佳氏:客観的な視点で切り取る世界の「人間」


野口里佳氏は、大地の上で生きる人間を、至極客観的な視点で切り取る面白さを提示しています。
- 遥か遠くから撮影された鳥取砂丘でパラグライダーに挑戦する人々。
- 滞在先のホテル窓から撮影された雪景色の中の「道」。
- 雪景色の中で、スキーで次々と空中を飛ぶジャンパー。



大きな地球の上で、道具を使って飛ぶことに挑戦する人もいれば、ただ黙々と雪をはねて道をつくり、その道を歩いていく人もいる。それらを淡々と見つめる作家の視点が、同じ太陽の下にいながら、季節や場所によってそれぞれの行動をする、人間という生き物の面白さを、飄々としたトーンで浮かび上がらせます。
青木陵子+伊藤存氏:白老に残された「植物たちのオーケストラ」


青木陵子氏と伊藤存氏のインスタレーションは、白老のゴルフ場開発予定地が開発されずに残った場所をモチーフにしています。
この作品は、その場所に自生する植物を観察し、記録した映像にリズムをつけたり、そこからアーティストが感じ取ったものをドローイングや音楽で表現したものを組み合わせたインスタレーションです。風に揺れる様々な植物の動きが音楽に乗り、まるで「植物たちのオーケストラ」を聴いているよう。
展示室内に共鳴する光や音は、開発されずに残ったことを喜ぶ植物の勝利の音楽にも聞こえ、自然の生命力の力強さを感じさせます。
平川紀道氏:感覚の転換を試みる、光の可聴化と可視化


平川紀道氏の作品は、「光の可聴化」と「見えないものの可視化」という、鑑賞者の感覚の転換を試みています。
太陽から発せられる光とベンガラの光を映像で映し出し、それらを「音」に変換した暗闇の中では、真夏の灼熱の光の中にいるときと似た強烈な白さを感じました。展示室の奥には人の目では認識できない太陽コロナの鉄プラズマを可視化した映像も展示されています。作家ができる限り主観性を取り払い、物質から発せられる根源的なものを忠実に表現しようとしている点に注目です。
私たちは「見たいものしか見ない」生き物ですが、目に見えているものを耳で感じさせ、目には見えないものを見せるこの作品からは、「私たちは何を見て何を感じているのか」について改めて考えさせられます。
国松希根太氏:巨木が持つエネルギーと大きいのに可愛い木彫作品
国松希根太氏は、白老の海岸沿いの工事現場から発見された木材を用いた「LAOCOON」など、力強い木彫作品を展示しています。
巨木が放つ強いエネルギー「LAOCOON」


樹齢3〜400年はありそうな巨木は、その幹のうねりから「LAOCOON(ラオコーン)」と名付けられました。ところどころにある漆黒の裂け目に吸い込まれそうになるほどの、巨大で強いエネルギー体のような圧倒的な存在感は、ぜひ実際に体感してほしい見どころの一つです。
冬のイメージが愛らしい「GLACIER MOUNTAIN」

国松希根太 展示風景

国松希根太 部分
同じく木を使い、白く塗られた作品が「GLACIER MOUNTAIN」です。冬の山をモチーフにしたのはもちろん、冬にできる霜柱のイメージもあるとのこと。自分が霜柱と同様のサイズ感だったら、という視点で制作されたと聞くと、腰のあたりまであるこの彫刻群が急に可愛らしく思えてくるから不思議です。
それぞれの形が個性的で、角度によって異なる表情を持つこの作品群は、見るほどに愛着が増してきます。見る角度による光のあたり具合で、見え方が変わるのはもちろん、見る人の気持ちやその時の感情によっても変化するような作品です。
会場最後を飾る:平川紀道氏のプログラミングアート
![芸森リフレクションズ展示作品「(non)semantic process[version with a driftwood on Shiraoi beach]」平川紀道 コンピューター、液晶ディスプレイ、木](https://www.happa.blog/wp-content/uploads/2025/11/IMG_9332-e1763642819497-800x601.jpeg)
コンピューター、液晶ディスプレイ、木
![芸森リフレクションズ展示作品「(non)semantic process[version with a driftwood on Shiraoi beach]」平川紀道 コンピューター、液晶ディスプレイ、木](https://www.happa.blog/wp-content/uploads/2025/11/IMG_9333-800x1067.jpeg)
コンピューター、液晶ディスプレイ、木 部分
会場の最後を飾るのも平川紀道氏の作品です。「(non)semantic process [version with a driftwood on Shiraoi beach]」というこの作品は、平川氏が2020年に北海道白老町で偶然拾った流木を使ったインスタレーションです。
作品は、以下のようなプログラムによって動いています
- 流木を撮影する
- そのデジタル画像の各画素の明るさの値をアルファベットの総数で割る
- 割った余りに対応するアルファベットに置換することにより英字列に変換する
- その英字列を辞書と照合して存在する英単語を羅列し、英文を生成する
このプログラムにより生成された、一見すると無意味にも見える英文が1台のディスプレイに、もう1台のディスプレイには流木を撮影した画像が流れ続けます。流れる言葉は常に意味をなさないが、ときに意味のある言葉に変わる可能性もある。これは、自然の中にあるふとしたものに私たちが意味を感じたとき、例えば拾った石ころに、遠い昔に遊んだ記憶が蘇り、突然その時の確かな感情を思い出すことと似ているのかもしれません。
🚌 札幌芸術の森美術館 へのアクセス情報
札幌芸術の森美術館
- 住所: 〒005-0864 北海道札幌市南区芸術の森2丁目75
- 電話: 011‐591‐0090
公共交通機関をご利用の場合
地下鉄+バス: 地下鉄南北線 真駒内駅下車。駅前から中央バス([102・106・107・108/滝野線])に乗り換え、「芸術の森入口」徒歩2分。
お車でお越しの場合
- 札幌市中心部より車で約40分。
- 道央自動車道 [北広島IC]より約21km。※新千歳空港から来る場合
- 道央自動車道 [札幌北IC]より約23km。
- 駐車場561台収容可能(有料)
- 普通車 500円
- 大型車 1200円
✨ 展覧会のまとめ:深い感性が響鳴する「リフレクションズ」
今回の「リフレクションズ:いつかの光」は、5組のアーティストの多様な表現を通じて、単にアートを鑑賞する以上に、観るとはどういうことか、感性とは何か、という問いを投げかけるものでした。
会場の最後を飾る平川紀道氏の、流木に光を当てて言葉に変換する作品は、今回の展覧会の鑑賞体験として非常に示唆に富んでいます。それは、意味のないものの中から、われわれ人間が意識せずとも意味を見出そうとする行為そのものを表しているようです。
私たちが目にする何気ない景色に、何かしらの意味や、感情を見出すのは私たち自身に内なる「光」があるからに他なりません。
この展覧会では、それぞれの作品で表現される光が、鑑賞者に当てられることで新たな意味をもち、より深い内面の世界へと導いてくれます。札幌芸術の森美術館の静謐な空間で体験したこの「光」と「感性」の時間は、日常に戻った後も、長く心の中で響鳴し続けることでしょう。


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