札幌の地下で自然の生命力を感じる:500m美術館「資源カメラ」と「森を歩く」展 レビュー

資源カメラ ミュージアム

友人からの「良い展示をしている」という情報に惹かれ、札幌大通地下ギャラリー500m美術館で開催されていた2つの展覧会に足を運びました。2024年6月26日に会期を終えた渡辺行男さんの個展「資源カメラ」と、500メーターズプロジェクト「Walk in The Forest 森を歩く」のレビューです。

札幌の地下鉄東西線、大通駅とバスセンター駅を結ぶコンコースに広がる500m美術館は、様々なアーティストの作品が展示されるユニークな空間です。今回は全く異なる作風ながらも、どちらも自然の生命力に満ち溢れ、まるで季節が巡る時の感情を追体験できるような、心に残る展示でした。

地下空間に広がる2つの異なる世界

500m美術館の掲示

西から東へと続く地下コンコースに約500mにわたり展開された2つの展示。直線的な導線は自然な流れで作品へと誘い、通路の壁面を使った展示は、通常の屋内展示とは異なる迫力と没入感がありました。地下空間という特性が、作品の世界観をより一層深めていたと感じます。

渡辺行男さんのオオイタドリを使った個展「資源カメラ」

オオイタドリの写真
豊平川の河川敷にも生い茂っているオオイタドリ。

豊平川に生い茂るオオイタドリの強さ

豊平川の河川敷にも生い茂るオオイタドリ。渡辺行男さんは、この北海道に広く繁茂する植物を使って立体作品を制作するアーティストです。オオイタドリは繁殖力が強く、一度刈り取られてもあっという間に復活するその生命力には驚かされます。

展示は小さめの作品から始まり、徐々に大きな立体へと変容していく構成でした。その様は、まさにオオイタドリが静かに、しかし強烈に、そしてどこか不気味に生い茂っていく姿と重なります。作品から放たれる生命のエネルギーに圧倒されました。

500mじーさんのアート談義と不気味なカメラ

500mじーさんのキャプション
色々教えてくれる500mじーさん

展示の途中には「500m(メートル)じーさんのアート談義」と題されたキャプションがあり、作品の解説が丁寧になされていました。ふりがな付きで、じーさんが語りかけるような口調は、子どもから大人まで親しみやすい工夫だと感じました。

その横に常に設置されていた、足のついた「資源カメラ」。小さな覗き穴からこちらをじっと見つめているかのようなその姿は、まるで自然が人間の行いを静かに観察しているようにも見え、なんだか背筋がゾクっとするような怖さを覚えました。大きくて少し不気味なその存在は、作品全体に強い印象を与えています。特に「森林虫」という作品からは、自然界に潜む強大で畏怖の念すら覚える力を強く感じ取ることができました。

森林虫
大きくて少し不気味。森林虫。

不要なものから生まれるアート

展示の最後には、廃品として捨てられる運命にあったボーリングのピンで制作された作品が展示されていました。表面を覆っていた白い部分が美しい花のように見え、不要とされ見向きもされない存在(オオイタドリもしかり)がアートとして新たな生命を得る瞬間に立ち会ったような感覚になります。

「人間にとって本当に必要なものとは何か?」という問いを投げかけているような作品たち。地下という閉鎖された空間と、茶色を基調とした渡辺さんの作品群の組み合わせは、まさに地下で蠢く生命体のように、見る者の心に深く響きます。

500メーターズプロジェクト  Walk in The Forest 森を歩く

ワークショップの作品
色がとても綺麗なのと、みんなで作成した雰囲気が伝わってきて楽しい

色彩豊かな冬から夏への移ろい

渡辺行男さんの個展に続いて現れたのは、一転して明るい白い壁面。土の匂いを感じさせるような不気味な生命体の世界から、まるで雪に覆われた冬の森へ足を踏み入れたような、静かで清冽な空気が広がります。

2月の凍てつくような寒さから始まり、思わず身震いするような冷たさが表現されつつも、そこから春の芽吹き、夏の賑やかさへと季節が巡っていく様子が鮮やかな色彩で描かれていました。見ているうちに、自然と顔がほころんでくるような、明るく楽しい世界観が広がっています。

参加型アートが魅せる明るい空間

この作品は、作家の田中マリナさんと、500m美術館のボランティア「500メーターズ」、そしてワークショップの参加者が一緒に制作したものです。皆で作り上げた雰囲気が伝わり、作品から温かみと楽しさが滲み出ています。

特に目を引くのは、その美しい色使いです。暗くなりがちな地下のコンコースを驚くほど明るい雰囲気に変え、思わず足を止めて見入ってしまうほどでした。行き交う人々も、壁面のキャンバスに目を向けながら通り過ぎていく様子が印象的でした。これは札幌国際芸術祭との連携企画でもあったそうです。

展覧会情報(会期とアクセス)

渡辺行夫 個展「資源カメラ」

・会期:2024年4月27日(土)〜6月26日(水)

Walk in The Forest「森を歩く」

・会期:2024年1月27日(土)〜6月26日(水)

アクセス

〒060-0051 札幌市中央区 大通西1丁目~大通東2丁目

TEL:011‐211‐2261

まとめ:自然との共生を問いかける地下ギャラリー

資源カメラ
資源カメラの向こうから…

「資源カメラ」では、普段雑草として扱われるオオイタドリを使い、自然の生命力と人間のあり方を対峙させる渡辺行男さんの深い視点を感じました。一方、「森を歩く」では、同じ自然を季節の美しさでリズミカルに表現し、見る者を明るい気持ちにさせてくれます。

同時期に開催されていた対照的な2つの展示でしたが、どちらも私たちに自然との共生について深く考えさせる、示唆に富んだ内容でした。「森を歩く」のように、展示が終わればなくなってしまう作品があるのは本当に残念です。

そして帰り道、道端の鬱蒼と生い茂ったオオイタドリの群れから、ふと「資源カメラ」のような視線を感じたのは気のせいでしょうか……。

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