実は、中島みゆきさんのことをあまりよく知りませんでした。札幌出身でカラオケでよく歌われている方、そして「夜会」と呼ばれる独特な世界観のコンサートを開いている方、というくらいの少し近寄りがたいイメージを持っていました。
そんな私ですが、現役で活躍されているのに展覧会が開催されると知り、「全く興味がない分、先入観なく客観的に楽しめるのでは?」と思い、帯広美術館へ足を運んでみました。
結論から言うと、展覧会を見る前と見た後では、これまでの彼女に対する見方が変わり、もっと中島みゆきを聴いてみたい! と強く思うようになりました!
展示はCHAPTER1〜CHAPTER7までの7つの章にわかれていました。

CHAPTER1 今も進化を続ける中島みゆきストリート
デビュー曲「アザミ嬢のララバイ」から最新アルバム「世界が違って見える日」まで、LPやCD、DVD、書籍、パンフレットなどが年表のように展示されていました。展示室の壁面をぐるりと辿るように見て回ります。中島みゆきさんとゆかりの深い音楽評論家の田家秀樹氏や音楽監督の瀬尾一三氏による雑誌対談記事なども随所に挟まれており、中島みゆきさんの活動の軌跡とその世界観を、より深く俯瞰的に知ることができます。
CHAPTER2 MY FAVORITE SONG
「歌縁」という他のアーティストによる中島みゆきさんの楽曲をカバーしたLIVEイベントにちなんだ作品が紹介されているコーナー。
CHAPTER3 レコード万歳
こちらではお気に入りの曲(レコード)をリクエストして聴くことができます。せっかくなので、職員さんに相談に乗ってもらいながら一曲選んでみました。CHAPTER4の倉本聰氏のコメントにあった「生きていてもいいですか」というアルバムから「異国」。マンションの入口のゴミ置き場に、死んで捨てられていた外国人娼婦をモチーフにしたと言われている曲です。彼女の深い悲しみを代弁するかのような曲に圧倒されてしまいました。この曲をリクエストする方は多く、中には号泣しながら聴く人もいるとか。椅子に座ってじっくり鑑賞するのも良いですし、館内を歩きながら聴くのも良いでしょう。個人的には、後述するCHAPTER7の「言葉の森」エリアに設置されたスピーカーで聴くのがおすすめ。

CHAPTER4 コラボレーション(映画・ドラマ・CM)
CMや映画、ドラマなど、様々なメディアとのコラボレーションが紹介されているコーナーです。数多くの楽曲を世に送り出している中島みゆきさん。いくつかのCM動画やドラマ映像が流れていましたが、特に印象に残ったのは、ポカリスエットのCMで「ファイト!」を歌っている女優の満島ひかりさんのバージョンです。歌い手さんによって全く違った印象になる「ファイト!」ですが、改めて聴くと、やはり心がすっきりして前向きな気持ちになれる曲だと感じました。このCMは巫女のイメージで作られたとのことですが、その清々しさが心に強く残ります。反対に、中島みゆきさんご本人が出演されている缶コーヒーのCMでは、とてもチャーミングな姿を見ることができ、見ているこちらも自然と笑みがこぼれてしまいました。
CHAPTER5 夜会 言葉の実験劇場
「夜会」と呼ばれる独特の舞台に焦点を当てたコーナー。舞台セットの模型や実際のステージの動画が放映されていました。長椅子もあるので座って夜会の雰囲気を楽しむことができます。コンサートとも演劇とも違う、不思議な舞台というイメージでしたが、古典文学をモチーフにした演目もあるとのことで、どんな舞台なのか、一度は生で見てみたくなりました。舞台衣装は同じデザインの色違いのロングドレスで白とバーガンディの2色。清らかで神々しさを感じさせる白、内に秘めた情熱を感じさせるバーガンディはどちらも中島みゆきさんしか着こなせなさそう。
CHAPTER6 拝啓みゆき様 あなたからみゆきへ
ファンの方々からのメッセージを壁に作られた大きな木に貼っていく参加型の展示です。カラフルなリーフ型の付箋に書かれたメッセージ一つひとつからは、札幌出身ではありますが帯広柏葉高校にも通われていた中島みゆきさんへの、地元ならではの親しみや愛情が感じられました。それぞれの言葉が集まって大きな木を彩っていく様子は、とても素敵な光景でした。

CHAPTER7 言葉の森
中島みゆきさんの楽曲の歌詞が書き抜かれた言葉の展示。白い紗のような布に浮かび上がる文章は、難しい言葉は少なく、読んでいると思わず共感してしまったり、はっと胸をつかれるような表現があります。ここで見た言葉が実際にどんなメロディーに乗っているのか知りたくなり、再び第3章のリクエストコーナーへ足を運んでしまいました。選んだ曲は「進化樹」。自然への思いが伝わります。

展示室の合間にある休憩コーナー
展示室の合間の廊下には、椅子と本棚が設置されており、座ってゆっくりと展示に関連する書籍などが読めるようになっています。年表形式で展示されている書籍や資料も手に取ることができ、中島みゆきさんの長い活動の軌跡をより深く辿れる工夫がされていました。

混雑状況
ゴールデンウィーク中のお昼前に来場しましたが、ファンと思しき方々が多くいらっしゃいました。
レコードを聴ける席は常に満席というわけではなく、タイミングによっては座ることができました。リクエストした曲も、会場内にいる間に聴くことが可能です。
全体として、人で展示が見れないというほどではありませんでしたが、賑わっていました。
所要時間
じっくり見て、およそ1時間ほどでした。ただし、文章量も多いですし、展示関連の書籍を手にとって読むこともできるので、もう少し時間がかかるかもしれません。休憩スペースも充実しているので、熱心なファンの方なら一日かけて楽しむこともできそうです。
観覧料
特別展のみ
個人: 一般 1,800円、高大生 1,100円、中学生 800円、小学生以下 無料
各種割引(団体・前売・リピーター・相互・ファミリーなど): 一般 1,600円、高大生 900円、中学生 600円、小学生以下 無料
特別展 + コレクション・ギャラリー共通券
一般 1,910円、高大生 1,160円
(※中学生以下のコレクション・ギャラリー観覧は無料です)
※詳細は美術館公式サイトでご確認ください。

会期&開館日・開館時間
9:30 – 17:00 (展示室への入場及びミュージアムショップのご利用は16:30まで)
休館日: 月曜日(月曜日が祝日または振替休日の場合は開館し、翌火曜日が休館となります。)
アクセス&駐車場情報
〒080-0846 北海道帯広市緑ケ丘 公園内
緑ヶ丘公園の無料駐車場をご利用いただけます。公園内に複数箇所(8カ所)ありますので、美術館に近い駐車場をご利用ください。
周辺施設
- 帯広動物園
- 帯広百年記念館
- 緑のセンター
まとめ

今まで札幌出身のアーティストというくらいしか知らなかった中島みゆきさん。今回の展示では、彼女の織りなす言葉の美しさを堪能できるものでした。なぜ彼女の言葉は美しいのか。それは、美しい情景を歌っているわけでも、美しい心情をうたっているわけでもない。彼女の言葉は私たちの心にまっすぐ、偽りなく届くものだからです。それは人を傷つけたりするような種類のものではなく、弱い人や哀しい人の心にそっと寄り添うような、そんな優しさに満ち溢れたものだからこそ美しいのではないでしょうか。
この展覧会は、長年のファンの方はもちろん、私のように中島みゆきさんのことをあまり知らない方こそ、その魅力に気づくことができる展覧会です。
誰もが心の奥に抱える小さな痛みに寄り添い、分かち合い、そしてそっと背中を押してくれる中島みゆきさんの世界。帯広美術館で開催されているこの機会にぜひ足を運び、その「言葉の世界」に触れてみてはいかがでしょうか。
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