【北海道北広島】黒い森美術館 孫田敏スキャンアート展「植物細事記vol.3 樹も観る森も観る」レポート

松のスキャンアート ギャラリー

スキャンアートをご存知ですか?

植物をそのままスキャンするという、とてもシンプルな手法で生まれるアートです。けれどもその単純な手法によって、普段見ているはずなのに、いつもとは全然違った神秘的で美しい植物のかたちがたちどころに私たちの目の前に現れるのです。

今回ご紹介するのは、北広島にある黒い森美術館で開催された、孫田敏氏の「植物細事記vol.3 樹も観る 森も観る」展を訪れた時のレポートです。

黒い森美術館は、開館日が月水金だけというユニークな美術館(ギャラリー)です。オーナーさんのご都合で、開館した約15年前からずっとこの日程なのだそう。ずっと気になっていた場所でしたが、孫田敏氏の個展が開かれると知り、この機会に訪れてきました。

黒い森美術館 スキャンアートの世界へ

黒い森美術館

美術館のドアを開けると、まず目に飛び込んでくるのは、開放的で大きな窓から光が差し込む、心地よい空間。孫田敏氏のスキャンアート作品が並んでいます。

展示されていたのは、ヤチダモ、ハンノキ、イタヤカエデ、ハルニレ、ナナカマドなど、私たちの周りでもよく見かける樹木の名前を冠した作品です。けれども、そこに写し出された姿は、私たちが見慣れた植物のイメージとは異なり、まるで初めて見る不思議な生き物のようです。これがスキャンアートが作り出す世界なのです。

孫田敏氏「植物細事記vol.3 樹も観る 森も観る」展 レポート

展覧会「植物細事記vol.3 樹も観る 森も観る」では、孫田氏がスキャンアートを通して捉えた植物たちの細密で魅惑的な世界を体験することができました。

見慣れた植物の美しい姿に目を瞠る

ナナカマドのスキャンアート

私たちが思い浮かべるナナカマドは、尖った葉に秋には真っ赤な実をつける、庭木としてもおなじみの姿でしょう。しかし、孫田さんの作品に写っているのは、小さくて可愛らしい蕾、儚くも可憐な花、鮮やかな色彩を放つ果実、そして大地から生まれたばかりの実生(みしょう)。一つの「ナナカマド」という樹木に、こんなにも多様で繊細な表情があったのかと改めて驚かされましたす。まさに「樹も観る」というタイトルの意味するところだと感じました。

作家が発見した日常の「細事」

孫田さんは、健康のためにご自宅から職場まで歩いていたとき、道端にある樹木を見て「これをスキャンしたらどうなるんだろう?」と思い立ち、スキャンアートを思いついたそうです。特別な場所や珍しい被写体ではなく、日常のすぐそばに存在する身近なものに目を向け、その「細事」を丁寧に観察することからアートが生まれるというエピソードは、私たち自身の日常の見方にも気づきを与えてくれます。

植物たちの造形とアートが伝えるもの

普段見慣れている木々の幹や葉の形は、遠目に見るとどれも似ているように感じてしまいますが、こうして孫田さんのスキャンアートを通して、それぞれの「葉」や「蕾」「果実」「実生」といった細部をじっくり観察してみると、一つとして同じものはなく、どれも個性的で驚くほど違うことに気づかされます。大きさ、形、色、質感。それらが漆黒の背景に浮かび上がる様子は、植物たちの持つ秘めた生命の神秘を感じさせ、近寄りがたいほどの神聖さを湛えていました。

特に印象に残った作品(ドロノキ、行者にんにくなど)

個人的に面白かったのはドロノキの写真と行者にんにくの作品。ドロノキ、綿毛と茶色の果実なのでしょうか。画面に配置された様子がどこかの民族模様のようでした。一方、行者にんにくは食用のときの姿とはまるで違っていて、繊細で美しい花が印象的です。それぞれの植物の意外な一面を見ることができました。

展覧会プラスアルファ:アートと自然が融合する空間

ギャラリーの一角にはカフェコーナーがあり、コーヒーなどをオーダーして孫田さんの作品集などを閲覧しながらゆっくり過ごすことができます。

また、オーナーさんが師事されたという、美術館の名前にもなっている渋谷栄一氏の版画作品や、その他の作家さんの作品も数点常設展示されていました。

黒い森美術館を取り囲む美しい森も大きな魅力です。今回は残念ながら参加できませんでしたが、孫田さんと一緒に森を歩くイベントが展覧会に合わせて開催されていました。作品を見た後に森を散策させていただいたのですが、小道が整備されていて歩きやすく、ちょっとした彫刻作品も置いてあり、アートと自然が融合した素敵な空間でした。まさに、展覧会タイトルのもう一つのテーマである「森も観る」体験を五感で楽しむことができます。

入場料

入場無料

会期&開館日・開館時間

孫田敏 スキャンアート展「植物細事記vol.3 樹も観る 森も観る」

2025年5月5日(月)〜7日(水) および 2025年5月12日(月)〜14日(水)
開館日:月・水・金 のみ
開館時間:10:30〜15:30

アクセス&駐車場情報

場所:黒い森美術館(渋谷栄一記念ギャラリー)

住所:〒061-1153 北海道北広島市 富ケ丘509-22

電話:011‐373‐8239

駐車は数台可能

まとめ

ずっと気になっていた「黒い森美術館」で開催された孫田敏氏の「植物細事記vol.3 樹も観る 森も観る」展。短い会期ではありましたが、植物の素晴らしさを体感できる展覧会でした。

スキャンアートを通して見ることができる、身近な植物たちの「細事」の美しさ、そして一つ一つの命が持つ個性。それは、私たちがいかに普段、物事を「おおまかに」捉えてしまっているかを気づかせてくれます。作品を見ていると、「樹も観る」というミクロな視点と、美術館を取り囲む自然の中で「森も観る」というマクロな視点が繋がり、単に目の前の「植物」を見るのではなく、「樹木一本一本の細部(細事)」と、それらが存在する「森全体」の両方に目を向けることを促されるような、深く美しい展示でした。

アート作品と共に森の散策まで楽しめるというユニークな体験ができる黒い森美術館。アートの新しい世界、そして美しい緑の空気に触れることができる森の奥のギャラリーです。

展覧会は残念ながら会期が終了となっていますが、機会があれば是非この魅力的な空間を訪れてみてください。あなたの「見慣れた世界の見方」が変わる、そんな発見があるかもしれません。

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