旭川美術館「新・山本二三展」へ。ジブリ作品の背景美術に息をのむ!

新・山本二三展ポスター ミュージアム

アート好きなら見逃せない!北海道立旭川美術館で開催中の「新・山本二三展」に行ってきました。スタジオジブリの「天空の城ラピュタ」や「もののけ姫」、アニメ映画「時をかける少女」「天気の子」など、数々の名作の背景美術を手掛けた巨匠、山本二三(やまもとにぞう)氏(1953〜2023)の展覧会です。

まるで映画の世界!圧巻の展示空間へ

会場に入ると、まず目に飛び込んでくるのは「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」「時をかける少女」の3枚のポスター。これだけでもワクワクしますよね!奥に進むと、背景美術の制作工程や、技法について解説したパネルが展示されています。普段何気なく見ているアニメの背景が、いかに緻密に制作されているのかを知ることができます。

今回の展覧会では、山本氏の初期の作品から最新作まで、なんと約220点もの作品が展示されています。これだけの数を一堂に見られる機会はなかなかありません!展示は作品のテーマごとに大きく5つの章に分かれており、さらに見どころに焦点を当てた3つの小特集も用意されているので、それぞれの作品が持つ魅力がとてもわかりやすかったです。

また、作品制作に欠かせないポスターカラーの絵の具や絵筆、図鑑など、山本氏が実際に参考にしていた道具類も展示ケースで見ることができました。特に図鑑には様々な種類の雲の写真が載っていて、山本氏の描く空の表現の豊かさの秘密を垣間見た気がしました。

時をかける少女背景画

第1章:冒険の舞台 ‐ 空想世界への誘い

この章では、「天空の城ラピュタ」をはじめとする、現実には存在しない世界を描いた作品が中心に展示されています。TVアニメ「未来少年コナン」や「ファンタジックチルドレン」、RPG「世界樹の迷宮」シリーズの背景画など、その緻密な筆致は、まるで本当にその世界が存在するようなリアリティを感じさせます。

特にラピュタの背景画では、建物の質感や、空に浮かぶラピュタ雲の表現に注目です。外から差し込む光と、夜に建物から漏れる灯りの描き分けなど、同じ光でも多様な表現によって、その場の空気感まで伝わってくるのは、まさに山本氏の卓越した技術の賜物でしょう。

また、「未来少年コナン」の初期の背景画もあり、見比べることができるので、若き日の山本氏の表現との違いを感じるのも面白い発見です。「世界樹の迷宮」では、マダガスカルのバオバブの木をモチーフにしたり、ありえない植物の組み合わせで異世界の不思議な雰囲気を演出しているそうです。言われてみれば、どの植物もリアルなのに、どこか違和感がある。その理由がわかると、さらに作品への理解が深まります。

会場中央に展示されていた「ルパン三世」のセル画も圧巻でした。高円寺の街並みを上空から捉えた背景画には、細い電線や看板の小さな文字まで克明に描かれており、まさに職人技という言葉がぴったりです。

第2章:そこにある暮らし – 日常を描くリアリティ

第2章では、「じゃりんこチエ」や「火垂るの墓」「時をかける少女」など、人々の日常生活を中心に描いた作品が展示されています。
「じゃりんこチエ」では、秋の空気感を出すために「水洗い」という技法が用いられているそうです。何もない路面や地面、空間なのに、確かな質感があり、チエが暮らす下町の風景がぐっと現実味を帯びてきます。
一方、「火垂るの墓」は全く異なる印象で、悲しくも力強い存在感を放つ作品が並びます。暗い茂みに落ちたドロップの缶から飛び立つホタルの光。点描で淡い色を重ねた悲しみの風景。特に、暗い駅のホームと、まばゆい光を放つ電車の内部の作品の対比は、映画のストーリーを知っている人なら、胸に迫るものがあるでしょう。山本氏が舞台となった神戸西宮市を取材し、建物をスケッチしたというエピソードからも、作品に込めた思いの深さが伝わってきます。
「時をかける少女」では、夏の強い日差しの中の植物の表現や、主人公の生活を覗き見るような、少し歪んだパースで描かれた室内の風景など、現実を強調する表現で臨場感を出す工夫がされています。主人公が立ち止まった道の背景にあるドラッグストアの細密な描写には、ただただ感嘆するばかり。山本氏が「完全な仕事ができた」と語ったというこの映画の作品からは、背景画という枠を超えた、圧倒的な技術力を感じずにはいられません。

第3章 雲の記憶 – 山本二三の真骨頂

この章は、まさに山本二三氏の代名詞とも言える、雲の表現に特化した展示エリアです。広島や沖縄など、様々な場所の空に浮かぶ多種多様な雲はもちろんのこと、空や海の青色の、自然の色味をそのまま切り取ったような豊かな表現に目を奪われます。

「天気の子」のために描かれた気象神社の天井画は、映画ではデジタル加工されたものが使用されたため、加工されていない貴重な原画を見ることができます。背景として使われた4枚の絵に3ヶ月もの制作期間を費やしたという話からも、そのこだわりが伝わってきます。3つのレイアウトパターンが制作されたそうですが、どれが採用されてもおかしくないほど完成度が高いものでした。

第4章 森の生命 – 自然への深いまなざし

映画「もののけ姫」の森を中心に、自然の中の植物の様子を描いた作品が集められた章です。「師は自然」と語る山本氏の言葉通り、実際の植生の様子を再現しているだけでなく、シダや苔といった植物の細部まで、それぞれの個性が豊かに描き分けられ、力強い生命力を感じます。

シシ神のいる森は暗いけれどどこか神聖で、澄んだ冷たい空気感まで伝わってくるようです。また、子供向けの作品には優しい柔らかな色遣いが用いられており、幼いものや小さいものに寄り添うような、山本氏の温かい眼差しを感じました。「獣みち」という小さな作品では、小さなブナやカタバミなどの植物たちが、まるで楽しそうにおしゃべりしているような、そんな温かい気持ちになりました。

第5章 忘れがたき故郷 – 五島列島への想い

50代を迎えた山本氏は、故郷である長崎県の五島列島の風景を描くようになり、その数は約10年で100点にもなります。

「母たちの肖像」という作品では、お母様を中心とした親族の肖像画が、あじさいなどの小さな花々に囲まれて描かれており、深い愛情がひしひしと伝わってきます。「荒川温泉の裏通り」をはじめとする風景画は、山の空気や季節の移ろいまで感じられるほど 写実的でありながらどこか懐かしく、まるで自分が五島の景色の中に立っているような感覚になります。これらの作品からは、作者の故郷への深い郷愁や、温かい想いが溢れ出ているようでした。

3つの小特集 – より深く知る山本二三の世界

各章の間には、さらに深く山本氏の作品世界を知るための3つの小特集が設けられています。

山本二三と教育

山本氏は、小学校の社会科の教科書の挿絵も手掛けていたそうです。縄文時代や弥生時代の様子を、歴史に忠実に、そしてできるだけ正確に再現した絵は、そこに暮らす人々の生活まで細かく描かれており、文章だけでは伝わりにくい当時の様子を、視覚的に理解する助けになります。まさに、山本氏の画力が教育の現場でも活かされていたことがわかります。

光を捉える

未完成作品「かちかち山」から抜粋された作品を通して、夕暮れ時の光、燃え盛る炎の光など、様々な光の表現を比較することができます。同じ「光」でも、描かれる対象や時間帯によって、全く異なる表情を見せることを、改めて感じさせてくれます。

室内を描く

高校時代の課題で描いたパース図が、その後の背景画制作に大いに役立ったというエピソードと共に、「じゃりン子チエ」のチエの勉強机、「火垂るの墓」の清太の家、「遠い海から来たクー」の洋助の家、「火垂るの墓」の清太と節子の家といった、様々な作品の背景画やイメージボードが展示され、それぞれの家の内部を比較することができます。生活感あふれる室内の描写からは、キャラクターたちの個性 や物語の背景がより深く伝わってきます。

展覧会の混雑状況と所要時間

私が訪れたのは平日の金曜日の午前中でしたが、館内は比較的空いていて、ゆっくりと作品を鑑賞することができました。

キャプションは各章の最初に、展示の見どころを簡単に説明するデジタルサイネージがある程度で、作品一点一点に詳細な解説はありません。そのため、自分のペースでじっくりと作品と向き合いたい方には、とても良い展示になっています。

所要時間については、展示全体をざっと見るだけなら1時間程度、私のように一つ一つの作品をじっくりと見たい場合は、1時間30分以上は見ておくと良いでしょう。

ミュージアムグッズ

書籍、トートバッグ類、Tシャツ、額装品、クリアファイル、マグネット、絵葉書、パラパラブック、キーホルダーなどが販売されていました。

同時開催 紙との対話 水彩・素描の世界

第2展示室

さて、「新・山本二三展」の世界に浸った後、同じフロアの第2展示室へも足を運んでみました。
ここでは『紙との対話 水彩・素描の世界』と題された、旭川美術館が所蔵する水彩・素描のコレクション展が開催されていました。

会場には、小野州一、板津邦夫、福井爽人といった、様々な作家さんの作品が並んでいます。

中でも、私の目を引いたのは高橋北修(1898〜1978)という作家さんの作品でした。高橋氏は旭川出身で、戦時中は従軍画家として戦地に赴かれた方だそうです。戦後は札幌を拠点に、旭川の風土を油彩で描かれたとのことですが、今回展示されていた2枚の絵からは、まるで子どもの寝顔を見守るような、とても優しく穏やかなまなざしが感じられました。

山本二三氏の描く世界とはまた違った、静かに紡がれる水彩や素描の世界。こちらの展示室も、それぞれの作品が持つ独自の魅力があり、じっくりと楽しむことができました。

ぜひ、こちらもお見逃しなく!

観覧料

新・山本二三展 観覧料

当日券

  • 一般: 1,300円
  • 高大生: 800円
  • 中学生: 500円

団体・前売り券

  • 一般: 1,100円
  • 高大生: 600円
  • 中学生: 400円

水彩・素描の世界 観覧料

当日券

  • 一般: 260円
  • 高大生: 150円
  • 中学生以下、65歳以上の方、土曜日とこどもの日の高校生は無料

団体

  • 一般: 210円
  • 高大生: 110円

共通券

  • 一般: 1,410円
  • 高大生: 860円
料金表

その他割引等は北海道立旭川美術館公式サイトをご覧ください。


展覧会の会期&開館日・開館時間

2025年4月12日(土)~6月15日(日)
休館日:月曜日(ただし5月5日[月]は開館)、5月7日[水]
開館時間:午前9時30分~午後5時(入場は午後4時30分まで)

アクセス&駐車場情報

場所:北海道立旭川美術館

住所:〒070-0044 旭川市常磐公園4046−1

常磐公園内

電話:0166‐52‐1934

まとめ

もののけ姫シシ神の森背景

北海道立旭川美術館で開催中の「新・山本二三展」は、ジブリ作品やアニメファンはもちろん、アートに関心のある方、そして息をのむような自然の描写に心惹かれる方にとって、まさに必見の展覧会です。単なる技術の素晴らしさにとどまらず、山本二三氏が自然への深い愛情を込め、その魂を作品に吹き込んだことに気づかされます。旭川を訪れる際には、ぜひこの感動的な世界に触れてみてください!

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